そのキスで、覚えさせて
「お前、いい加減に分かれよ。
今の俺はもう、お前がいないと仕事する意味すらねぇんだ」
相変わらず俺様口調だけど、甘くて優しい声で遥希は告げる。
その心地よい声に思わず聞き入ってしまう。
不思議だな、初めて会った時は嫌悪感しかなかった。
遥希はもっと自己中で、優しくなかった。
それなのに、今はこんなに、まるで溶けた砂糖のように甘い。
遥希はあたしに優しく笑いかけ、優しく手を伸ばす。
その手にあたしの手を重ねた時……
「俺、帰るな」
藤井さんがいそいそと荷物をまとめはじめてしまい、
「ふざけんな!」
案の定遥希が怒る。
目の前の遥希は、もはや甘さのかけらすらなくて。
「てめぇがレシピ教えてくれねぇと、俺は死亡なんだよ!」
恩人の藤井さんに向かって、無礼極まりない言葉を発していた。