そのキスで、覚えさせて
藤井さんは大爆笑して、遥希はぐっと口を噤む。
あたしがあまりにもファンだから、遥希がイラつくのも分かるけど、
「あたしには、遥希しかいないよ?」
大好きな遥希にそう告げた。
「かっこいい碧は大好きだけど、それだけ。
遥希のキスシーンと同じ」
遥希は気まずそうに口を閉じる。
そして、自分で言っておきながら、ちくりとした。
きっと、これからもずっと、遥希のキスシーンには落ち込むのだろう。
耐えられないだろう。
だから、せめてもの報いに、あたしは碧のファンをやめない。
「まぁ、そうは言っても馬鹿だしな、あいつ」
藤井さんはプリントアウトしたレシピの束を、遥希に手渡しながら言う。
そして、
「俺は碧の追っかけより、キスシーンのが嫌だな」
そう言い残して出ていった。