そのキスで、覚えさせて





あたしたちは突っ立ったまま、藤井さんの出ていった扉を眺めていた。

なんだか気まずくて、遥希の顔もはっきり見えない。

そんなあたしに、



「……ごめん」



やっぱり謝る遥希。

その言葉が、あたしの胸の奥底に沈んでいく。




仕事だって分かってる。

だから、あたしがとやかく言ってはいけない。

遥希だって、きっと辛いんだから。






「じゃあ、やっぱりあたしにキスして?」




言葉にすると、胸がとくんと甘い音を立てる。




「他の女性の存在を忘れさせるくらいの、甘くて優しいキスをして」





安心させてほしい。

キスシーンのことを思うと、やっぱり不安と嫉妬で狂いそうだから。


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