そのキスで、覚えさせて
その瞬間、
「残りあと一曲になってしまいました」
遥希の声に、悲しい悲鳴が上がる。
遥希はごめんね、とファンに言いながら、再びマイクを口に近付けた。
「最後の曲の前に、僕に少しだけ時間をください」
あたしの身体がガクガク震えて動けなくなる。
遥希は結婚すると報告するのだろうか。
もしそうだとしても、遥希はアイドル。
一言伝えて終わりなんだろう。
それ以上は許されない。
でも、それだけでも幸せだ。
むしろ、結婚の報告すらないかもしれない。
そんなあたしの考えは、粉々に打ち砕かれた。