A・O・I
1.夏の暑い日
「硝子(しょうこ)、悪いんだけど頼まれてくれない?」
夏の暑い日の日曜日、その電話が鳴った。
電話の相手は田舎の母。
珍しく掛けてきたと思ったら面倒事だ。
「え~嫌だよ…知らない人ばかりだし、私なんかが行っても、向こうだって困るだけじゃない。」
「そんな事言わないでよ~、お父さんが生前お世話になった恩師なのよ。お父さんの時も来てくれてるし、ちゃんと義理を返さなくちゃ罰が当たるわ。お母さんが行ければいいんだけど、腰が悪いの知ってるでしょ?とてもじゃ無いけど遠出は無理よ……それに、知らない人ばかりだから寧ろ都合がいいじゃない?ね?お願い!」
父が若くして亡くなって以来、そうゆう仏事は全て母がこなしてきた。
それでもこんなお願いをされると、少し切ない気持ちと共に、白髪混じりの母の顔が浮かんだ。
「……仕方ないな、分かったよ。取り敢えず行けばいいのね?長居は出来ないし、愛想良く話なんか合わせられないからね?」
「うんうん!それでいいから!供物は既に手配してあるし、香典だけ立て替えておいてくれる?」
「いいよ。香典くらい包める甲斐性あるし、お父さんがお世話になったんならそれ位するよ。」
「さすがキャリアウーマン!!頼りになるわ~!!」
「はいはい……その言い方ダサいからやめてって言ったでしょ?」
「ごめんなさ~い!じゃ、頼むわね?8月の3日だから忘れないでね!」
「はいはい、じゃーまたね。」
通話を切った足で、カレンダーにマジックで丸を付ける。
「面倒だなぁ……。」
億劫なだけな予定が、久し振りに部屋のカレンダーを汚した。
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