A・O・I
「えっ?!」
「小夜ちゃん、それは酷いよ~!!」
「どうせ、俺等はおじさんですよ~。」
「まさか小夜ちゃんの彼氏じゃないよね??」
話を振られた常連客が、一気に割り込んで声を上げる。
小夜さんは、“ほらね?”っとばかりに、眉を上げて俺に笑いかけた。
「フフッ!皆そんな事気にしてたの?言っとくけど、私は歳上がタイプなのよ。」
「また~上手いこと言って!!」
「小夜ちゃんは、おじさん煽てるの上手いよね~!!」
店内がドッと笑いの渦に包まれる。
今の俺には、アットホームなこの雰囲気が、一人だけ取り残された気分になった。
外で食べるには、まだ早かった。
早く食べて、ホテルに戻ろうと、俺は直ぐに出されたお通しに箸を伸ばした。
「......あ................美味し...い。」
まともに味を感じたのは、久し振りだった。
どれも丁寧な下ごしらえがされていて優しい味は、橘先生を思い出させた。
「硝子さんにも食べさせてあげー」
無意識に出た言葉に、一瞬、胸が詰まった。
奥から込み上げるモノは、一気に俺の目の近くまで来ると、我慢出来ず零れ落ちた。
こんな所で情けなさ過ぎる。
そう思っても、次から次へと零れ落ちたモノはテーブルに小さい水溜りを作っていく。
「蒼君~!お通しのお味はどう?うちの蓮根のきんぴらは、人気なのよ!」
小夜さんの明るい声が、俺に向けられたけれど、ただ頷く事しか出来ない。