A・O・I
人の足らいが本当に上手い。
知らず知らずの内に、小夜さんの言い成りだ。
でも、それが全然嫌な気がしない。
寧ろ、その心遣いが心地好かった。
「まだ浮かない顔してるのね?折角のイケメンが台無し。」
「この顔で何もいい事なんかありませんよ。一番欲しいものでさえ手に入らない...。きっと一生手に入れる事は出来ない.........。」
自分で放った言葉に、また打ちのめされる。
止まったはずの涙腺がまたも、テーブルにホトっと音を立てて涙を送り出した。
「...........何でだ?..........もう...止まれ...........止まれ.....よ......。」
「蒼君。あなたが欲しい物が何なのかは分からないけれど、それを手に入れる為に、ちゃんと努力したの?」
「ずっと...ずっと...今だって......俺はー」
「本当に本当?」
「すいません。今日会ったばかりの人にする話じゃありませんでした。これ以上話したら、小夜さんに失礼な事言ってしまいそうです。ごめんなさい。ご馳走様でした。...........これで足りますか?」
「足りるけど...........じゃお釣り持ってくるから待ってー」
「特別待遇して貰ったので、お釣りは取っておいて下さい。それじゃあ失礼します。」
少し困った様な顔の小夜さんを見て、罪悪感が込み上げたけれど、俺には余裕が無かった。