A・O・I
こっそり脱衣場に侵入すると、気づかれない様に服を脱ぎキャンドルに火を灯す。
バスルームではシャワーの音が響いていて、全く気がついて無いようだ。
頃合を見てパチンと電気を消した。
「じゃじゃ~ん!今日買ってきたキャンドルでーす!!折角だから一緒に楽しもうと思って!」
浴槽に入っている蒼は突然の出来事に、驚いて固まっている。
「ほら、いい香りでしょ?私のお気に入りのメーカーなんだ。」
キャンドルを置いて、体と頭を洗う。
その間も何やかんやと喋り続けて、終わると無理矢理蒼の隣に潜り込んだ。
「…………ごめん急に入って来て……嫌だった?」
身を固くして俯く蒼が、キャンドルの灯に照らされて見える。
終始無言でバスルームは沈黙に支配されると、いよいよ私も降参するしか無かった。
「ごめん……困るよね?……先上がるね。ゆっくり上がって来てね。」
少し近づけたと思った心が一気に萎んで行く。
立ち上がろうと浴槽の縁を掴んだ時だった。
「立ち上がらないでっ!!」
「えっ?」
今迄に聞いた事のない大声にびっくりして横を見ると、濡れた髪から飛び出た耳が、真っ赤に染まっているのが見えた。
「あの……もしかして……勘違いしているのかも知れませんが……あの……あの……」
「え?何?」
「僕、……男です。」
「えっ?……だって、女の子でしょ?顔だって……」
顔に掛かる濡れた髪を掻き上げて確認する。
「顔だけです……。」
そう言ってこちらに向き直った彼の胸元は、男の子のそれそのものだった。
キャンドルのオレンジ色の灯に照らし出されて、妙に艶めかしく映る。
ドクンッ
「ごっごめんっ!!」
一瞬にして顔に血が上って、動悸が激しくなる。
私はザバっと湯船から飛び出すと、素っ裸で脱衣場に飛び込んだ。
「え?え?うそ…………うそぉ……」
容姿とあおいという名前、自分も女の子に付けた名前だった為、完全に思い込んでいた。