A・O・I
初めて乗る路線の新幹線に乗り、30分に一度来るワンマン電車を乗り継いで、漸く着いた駅は少し寂れた無人駅だった。
「あ~暑……」
やたらと油蝉の声が煩くて、耳が可笑しくなりそうだ。
日差しは暑いが、時折吹く涼しい風が汗で蒸れた喪服を通り抜け、一時的に体温を下げる。
本当にのどかな片田舎で、駅前だというのに何も無い。
「ここからタクシーか……。」
駅の小さなロータリーを見渡すと、一台の古い型のタクシーが止まっていた。
ガラスをノックして中を覗くと、昼寝中のドライバーが目を覚ました。
「すいません。ここまで行ってくれますか?」
メモに書いてきた住所を見せると、初老のドライバーは“ はいはい”と頷いてエンジンをかけた。
「お嬢さんも、橘(たちばな)先生のお葬式の参列者かい?」
「橘先生?」
「学校の先生やってたでしょ?だから辞めた後も皆、橘先生って呼んでたからよ~……本当に惜しい人を亡くしたなぁ……私も教え子なもんですから。」
「あ、そうなんですか……私はよく知らないんです。父の代理なので。」
「あ~そうでしたか……あ、ほら……もう着きますよ。」
駅からは割と近くにその家はあった。
庭からはみ出す程の花輪が並んでいる。
「またタクシー必要でしたら、ここに電話下さい。ありがとうございました。」
去り際に、電話番号が記されたカードを渡された。
ラミネート加工が少しずれている手作りのカードが少し緊張していた気持ちを和ませる。
私は一呼吸着くと、次から次へと弔問客が入る流れに乗って一歩を踏み出した。
「この度は御愁傷様で御座います。」
神妙な顔で受け付けに挨拶をし、記帳する。
考えてみれば、お葬式で記帳するのは初めてだ。
一通り挨拶して線香を上げ終えて時計を見ると、式の開始時間までは暫く時間があった。
手持ち無沙汰で周りを見渡すけれど、知り合い同士で喋っていてどうしても居心地が悪い。