A・O・I
気が付くと私は蒼に支えられていた。
心配そうに潤んだ瞳が、あの日の涙を思い起こさせる。
「泣かないで……大丈夫だから。」
フラフラの足でゆっくり立ち上がると、確り殴った相手を見据えた。
驚きと怯えで不安そうな顔に、最後のダメ押しをする。
「また今度、私の息子を虐めたら承知しないんだから!!母親舐めんな!!」
自分よりかなり身の丈の大きい相手に、本当は足が震えている。
でも、私が守るって決めたんだ……絶対引くもんか。
ありったけの勇気を奮い立たせて相手を睨む。
「なっなんだよ!!親来てんのかよ!!うぜーな!!」
明らかに戦意喪失したのか、捨て台詞を吐いて去って行った。
「はぁ~………………怖かった~!!」
廊下にペタンと尻餅をつくような格好で座ると、まだ足が震えているのが分かった。
「ごめんね?驚いたよね?」
「………………。」
「またなんかあの子が言ってきたら、私に言って!今度は先生にちゃんと伝えるから!!……ね?」
俯いた顔を覗き込もうとした瞬間、蒼は急に立ち上がって走って行ってしまった。
「……はぁ~……またやっちゃったか………。」
廊下に一人取り残されて、自分の不甲斐なさに泣けてくる。
「母親でもないくせに出しゃばったりして、余計嫌われたかな?」
自虐しておいて、この状況に涙が込み上げてくる。
早くこの場を去りたくて、壁に掴まりながら校内を出た。
その間も肩がじんじんと痛む。
帰り道の何処かで、待っていてくれると思ったけれど、家に着くまで蒼の姿は無かった。
「ただいま~……。」
夕日が差し込むリビングのソファーに倒れ込む。