A・O・I
鍋の日から数日経って、私はお見合いと云う名の接待の席に着いていた。
少しいつもの接待と違うのは、自分の服装とメイクくらいだろうか。
嫌々でもお見合いの席だから、それなりの服装をして来いとお達しが下っていたのだ。
まぁその程度の常識なんて、言われるまでもないのだが、久し振りにワンピースなんか着ると、どうにも落ち着かなかった。
あの日から、自分の中の女の部分を置き去りにして来ている事は、充分分かっていた。
全てを忘れて仕事をする事に没頭すること。
そうでもしないと生きてこれなかった。
私はこれでいい……今更パートナーを作ってどうするとゆうのだ。
心から笑える日は、幸せだと実感する日はもう訪れない。
前向きな部長の隣で、私は心の扉をそっと閉めた。
「少し早く着いてしまったかな?」
「えぇ……そうかも知れません。少し楽にして待ちましょうか?」
「あぁ、そうだな。」
一つ息を着いて、今日の流れを何となく考えている時だった。
「お連れのお客様がお着きになられました。」
スッと襖が開けられると、先方の部長とその後に見合い相手がチラッと見えた。
不躾な視線は失礼かと、目線を下げて待つ。
「どうも、どうも!!お待たせした様ですいません!」
「いえ、こちらが早く来た迄で気にしないで下さい!」
「いや~すいません!早く出たのですが、目前で接触事故かなんかあったみたいで。」