A・O・I

鍋の日から数日経って、私はお見合いと云う名の接待の席に着いていた。

少しいつもの接待と違うのは、自分の服装とメイクくらいだろうか。

嫌々でもお見合いの席だから、それなりの服装をして来いとお達しが下っていたのだ。

まぁその程度の常識なんて、言われるまでもないのだが、久し振りにワンピースなんか着ると、どうにも落ち着かなかった。

あの日から、自分の中の女の部分を置き去りにして来ている事は、充分分かっていた。

全てを忘れて仕事をする事に没頭すること。

そうでもしないと生きてこれなかった。

私はこれでいい……今更パートナーを作ってどうするとゆうのだ。

心から笑える日は、幸せだと実感する日はもう訪れない。

前向きな部長の隣で、私は心の扉をそっと閉めた。


「少し早く着いてしまったかな?」


「えぇ……そうかも知れません。少し楽にして待ちましょうか?」


「あぁ、そうだな。」


一つ息を着いて、今日の流れを何となく考えている時だった。


「お連れのお客様がお着きになられました。」


スッと襖が開けられると、先方の部長とその後に見合い相手がチラッと見えた。

不躾な視線は失礼かと、目線を下げて待つ。


「どうも、どうも!!お待たせした様ですいません!」


「いえ、こちらが早く来た迄で気にしないで下さい!」


「いや~すいません!早く出たのですが、目前で接触事故かなんかあったみたいで。」


< 32 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop