A・O・I
「事故?!それは大丈夫ですか?!」
「いや、私共では無く前のタクシーですから……あ!荒川さん!!今日はありがとうございます!!こちらのわがままで、急な話を持ち掛けまして。」
「いえ、そんな事……それより私なんかで良かったのでしょうか?もっと若くて可愛い子がいますから……。」
「いやいやいや!!うちの後藤がどうしてもって言うので、無理強いしました。ほら、後藤!挨拶しなさい。」
紹介されて見合い相手に目線を移すと、不思議な感覚を覚えた。
何処かで……
「初めまして。後藤 啓介(ごとう けいすけ)です。」
「後藤……啓……介。」
その名を聞いた瞬間、ズキンと心臓が痛んだ。
知っている……
その名を知っている。
目の前の男性を良く見て、憶えている箇所を探す。
「私を憶えていますか?荒川……硝子さん。」
そう言ってニコッと笑った顔は、あの頃のままだ。
かつて私が愛した、たった一人の人……
葵の父親……
「啓介…………。」
「やっと……逢えた。」
前よりずっと低くなった声で、彼はそう言葉を発した。