A・O・I
やっと解放される、そう一息ついた時だった。
「それにしても、あの時はどうなるかと思ったけど……硝子ちゃんも立派になったものね~?兄さんもきっと喜んでるでしょうね?」
ドクンッ……
心臓に何かが刺さったように脈打ち始める。
「でも辛かったでしょう?私も母親だから分かるわよ~。子供を亡くすのは辛い事よぅ!!でも、すっかり忘れて元気になったものね?偉いわ~。硝子ちゃんも、もういい歳だし結婚しなきゃね?きっとそれだけは兄さんも天国で心配してるわよ?」
ドクンッ……
「いえ……私、結婚はしませんから……。」
「え?!何言ってるのよぉ~!勿体無い!!初婚は初婚なんだから、会社でいい人居ないの?社内婚すれば将来安泰じゃないのぉ~!!それで家の娘にも誰か紹介して頂戴!」
ドクンッ……ドクンッ……
掌に汗が滲み始めた。
もういい……これ以上話したくない……
心の中で何度願っても、叔母さんの口は止まらない。
ヒートアップした叔母さんは更に大声で捲し立てる。
場違いなその様子に周りもどんどん気が付いて、私を好奇の目で見始めた。
「お、叔母さんっ!……そろそろ……時間だから。」
私が遮ると、叔母さんは不満そうに、“そうね”と応えて私に背を向けて歩き出した。
「はぁ~…………。」
昔の記憶がまた蘇る。
いや、忘れてなんかいない。
あの時の事は、今でも鮮明に覚えている。
冷たく動かなくなった、あの子の手………
私は力無くその場にしゃがみ込んだ。
「…………忘れてなんかいないよ……葵(あおい)……。」