A・O・I
朝の出来事を忘れたくて、私は朝からノンストップで仕事をこなしていた。
今日やらなくてもいい仕事まで引っ張り出してやる始末。
案の定周りを見渡すと、オフィスは殆ど人気が無くなっていた。
遠くの方でまだ数人がポツポツとデスクに向かっている明かりが見える。
疲れ目を抑えてスマホを覗きむと、既に12時を回っていた。
着信履歴も蒼で埋まっている。
「ヤバッ!……連絡してなかった……はぁ~もう寝てるよね…………帰んなきゃ。」
ビルの玄関に向けてロビーを歩いていると、外に見慣れた背中を見つけた。
「蒼?!」
振り向いた蒼の頬と鼻がピンクに染まっている。
「どうしたの?こんな所で?もしかして鍵無くした??ほっぺもこんなに冷たくなって!」
慌てて自分のマフラーを首やら顔に巻き付けた。
「連絡取れないから心配で……電話なんで出てくれなかったの……?」
いじけた様に小さい声で私に話し掛ける様は、懐かしいあの頃を思い出させた。
「ごめんっ?!!仕事立て込んでて気付かなくて……さっき気づいたんだけど、こんな時間だし、もう寝てると思ってさ。」
「もう帰って来ないかと思った……。」
「何言ってんの~!そんな訳ないでしょ!!」
大きな身体をしょぼんとさせて立っている姿が、私の心をまたキューッと掴む。
思わず背伸びして、蒼の頭を覆う様に抱き締めた。
「……帰ろっか。」
「…………うん。」
9年経っても、私達の関係は変わらない。
いつも傍に居てくれる。