A・O・I

帰り道、ただ私達は黙って歩いた。

少し強く引かれた手の熱さだけが残っていて、何とも言えない気持ちに私をさせる。

仕事で遅くなった日は、いつもこんな顔をさせていたのだろうか?

家に帰りお風呂から上がると、蒼はソファーに座ったまま微睡んでいる様で、私は隣に座って覗き込んだ。


「蒼?湯冷めするから早くベッドで寝な?」


「…………。」


「蒼??」


「硝子さん。……今日……電話に出なかったのは、本当は俺と顔合わせるの気まずかったから?」


「えっ?!」


図星を突かれてドキンと心臓が鳴った。


「……そうなんでしょ?」


「いやっ!それは……え~っと……違くて……いやっ……違くはないか…………でも、そうじゃなくて……あの……」


「……今朝の事、謝るから……もう……避けたりしな……いで?」


「避けたりなんてしないからっ!!」


パニクって慌てる私の手を、蒼の大きな手が包んだ。

ビクッと身体が飛び跳ねて、咄嗟に蒼を見ると、虚ろな瞳が私を映していた。


「硝子さんに避けられたら……死にそうになる……か……ら……。」


肩に寄り掛かる温かい重みに、私の心は落ち着かない。


「……蒼?……ごめんね?……私なんか驚いちゃって、なんかごめん。今更驚くなんて変だよね?分かってる……私なんかおかしいよね?あははっ!!今日の事は反省する。これからはちゃんと連絡するから……ねっ?許して?」


触れている身体の一部を強ばらせながら、そっと隣を見ると、蒼は静かに寝息を立てていた。


「はぁ~……何やってんだろ……私。」


綺麗な寝顔を見ながら、私は理解出来ない自分のこの感情に戸惑っていた。



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