A・O・I
断る事は私の中では決まっている事実だけれど、仕事の事を持ち出されると、踏み切れないでいる自分が居た。
本当に狡い自分が嫌になる。
モヤモヤとした気持ちで会社を出た時だった。
「硝子!」
下の名前を呼ばれて咄嗟に振り返ると、そこには啓介が立っていた。
「えっ?!どうして……ここに?」
「お前が俺の誘い、全部断るからだろ!!」
「……ごめん。」
「謝らなくていいから、飯行こう!少しでも俺に悪いと思うならな。」
「……分かった。私も話さなきゃと思ってたから。」
「よし!じゃ、行くぞ!!」
啓介は私の手をぶっきら棒に握ると、そのまま引いて歩き出した。
「ちょっちょっと!!啓介!!」
「フフッ!やっと俺の名前呼んだな?」
振り向き様の啓介の笑顔は、幸せだったあの頃を思い出させる。
ドキドキしてギュッと胸が苦しくなった。
「こうして歩くの久し振りだな……。」
啓介も同じ気持ちなんだ。
あの時、啓介と私、同じ道を歩んでたら幸せになれたのだろうか?
一人で何度も考えて、どう仕様もない現実に泣いたっけ……。
「ここなんだけど?」
「うん。」
啓介が連れてきてくれたのは雰囲気のいい隠れ家的なレストランだった。
勿論、予約無しでは入れないような上等な店。