A・O・I
連れて来られた場所で、啓介がちゃんと話をしようとしてる事が伝わって来る。
「無理矢理連れて来る様な真似して悪かったな?でも、どうしてももう一度二人で話したかったんだ。」
「うん……私もごめん。避ける様な事して。」
手馴れた手つきでワインや料理を頼む啓介は、すっかり大人の男性で私の知らない人の様だった。
「ここの料理美味しいんだ。適当に頼んだけど良かったかな?」
「ええ。あなたの方がよく知ってる店だもの、任せる。」
少し待つと、ワインと前菜が運ばれて来た。
とても綺麗な彩と盛り付けで、こんな事で来ているのでなければ、凄くテンションが上がっている所だ。
「さぁ、腹減っただろ?食べよう!」
「ええ。」
暫くは、仕事の事を中心とした、他愛も無い会話を続けていたけど、二人とも本題を切り出すタイミングを伺っていた。
「硝子もすっかり大人の女性なんだな?一緒に居ると驚く事ばかりだ。」
「何言ってるの?貴方と同じ歳なんだから当たり前じゃない。」
「そう……だな……あの頃とは違うな…ハハッ!そう言えば、あの時、迎えに来た男の人は誰なんだ?」
「え?」
「名前もあおいって………?」
「…………知り合いの子を預かってるの……16歳の頃から。私にとって誰よりも大事な子なの。」
「他人の子を預かった?もしかして、それってー」
「蒼の事はもういいでしょっ?!!あなたに関係ないっ!!後藤さん、本題に入りましょう……私から正式にお断りー」
「待って、硝ちゃんっ!!気を悪くさせたならごめんっ!!その話はもう聞かないよ!だから、先に俺の話を聞いて欲しい!!」
懐かしい呼び名に、胸がトクンと動いた。
あぁ……そうだった。
彼にそう呼ばれるのが大好きだった。
「分かった。」
「……ありがとう。」
啓介は一旦下を向いて、大きく息を吐くと、短く息を吸って勢い良く顔を上げた。
「あの時、硝ちゃんを一人にしてごめん!!父親の責任から逃げてごめん!!辛い時一緒にいてあげられなくてごめん!!」
「啓介……。」
「どうか俺に償わせてくださいっ!!君をもう独りにはさせないからっ!約束するからっ!これからの硝ちゃんの喜びも悲しみも全て一緒に分かち合いたいっ!!……だから……だから、俺と結婚してくださいっ!! 」