A・O・I
「……啓介……私……。」
「今すぐ答えなくてもいい!!だから、じっくり考えて欲しい。」
「…….......。」
それから私は家まで送ると言う啓介を断って、最寄り駅から一人歩いていた。
私の中ではとっくに答えは決まっていた筈なのに、必死に謝罪とプロポーズしてくれる姿を見ると、迷いが生じていた。
蒼が誰かと結婚して、家を出ていったら、この先ずっと長い人生一人で生きていくの?
二人での生活に慣れた今の私には、考えただけで少し怖くなった。
啓介とまた新しくやり直す……そんな未来が可能だろうか?
そうしたら、今度は幸せになれるのだろうか?
あの時から考える事さえ止めた未来が、私の目の前に両手を広げている。
啓介の事を考えると、同時に蒼の事も浮かんで来た。
今日の事を話したら、蒼はなんて言うだろうか?
「あ~…………どうしよう…………。」
頭を悩ませながら家に帰ると、リビングのソファーに蒼が寄り掛かってうたた寝していた。
テーブルにはご飯とメモ帳が一枚貼ってある。
“温めて食べてね!飲み過ぎ注意!!”
「フフッ……まるで母親ね。立場逆転してるし。」
綺麗な寝顔を見ながら、ほっこりとした温かい気持ちが広がっていく。
「こんな所で寝たら、風邪ひいちゃうじゃん。」
寝ている蒼の肩を、軽く揺すってみる。
「蒼?あ~お~い~?!!風邪ひくよ?部屋で寝なさい。」
蒼は煩わそうに小さく唸って寝返りを打つ。
「抱っこして運ぶわけにもいかないし……もぉ~……蒼?!!こらっ!!」
もう一度腕を伸ばした瞬間、腕を掴まれ引っ張られた。
「わっ!!」
気が付くと私は蒼の腕の中に閉じ込められていた。