A・O・I
会社のビルの前まで行くと、既に同僚達でその場は溢れ返っていた。
皆バスに乗るのを待っていて、一応は各課毎に集まっているようだが、家族も連れて来てる人も多く、あちらこちらで子供が走り回っている。
こんな光景を見るのは初めてで、最初は多少圧倒されたけれど、見慣れてくると何かほのぼのとしていて微笑ましかった。
「おぉ~い!!荒川~!!こっちこっち!!」
遠くで山口君が手を上げて呼んでいる。
「あ~よかった!こんなに人がいっぱいだから、見つけられないかと思った!」
「ははっ!確かにこれは凄いよな?俺も朝来てビックリしたわ!」
「本当にこれは入社以来、初めての光景だよ!でも、なんか会社に子供がいるって不思議だけど、なんか和むね。」
「だなぁ~……独り身には堪えるか?……もしかして結婚したくなった?」
「えっ?」
「それなら目の前に、優良物件あんだけど?」
ピンと来なくてキョトンとする私を、山口君がジィーっと見つめている。
「えっ?えっ?!!」
「アハハッ!!冗談だよ!!何キョトンとしてんだよバーカ!!」
「あ……ハハッ...だよね?そーだよねー!!」
焦って笑った声がひっくり返る。
今のタイミングで、結婚の話は心臓に悪い。
「ねぇ?取引先の御一行様は、もう来てるの?」
「いや、忙しいみたいで途中参加らしい。来れる人も少ないとか。」
「そう!」
もしかしたら、啓介は来れないのかも知れないと思うと、途端に気分が軽くなった。
「さぁ!私達もバス乗っちゃおう!」
「おっ!張り切ってんな?よーし、行こう!!」