A・O・I
「いいってそんなの~!!大事に貯めときなさい。これから色々必要になるんだから……ねっ?それより、鰹食べてみて?美味しいから!!」
またはぐらかした。
やっぱりハッキリ言わないと意識してくれないか……。
寝ぼけた振りしてキスした事も、あれ以来何も言ってこない。
少しは意識してくれると思ったのに、相変わらず子供扱いだ。
「……うん。」
社員旅行に着いて行って、他の女の人に囲まれれば少しはヤキモチ妬いてくれるのかな?
男としての欲が日増しに増えてくる。
それでも先へ進めず八方塞がりだ。
硝子さんは俺の存在をどう思っているのだろう。
ずっとあの頃の子供のままで、あの瞳には映っているのだろうか?
たまにどうしても、気づいて欲しくなって言葉にしてみたくなる。
「硝子さんが、僕の料理を美味しそうに食べる顔、凄く好きなんだ~。」
「ゴホッ……え?そっそう?バクバク食べてんのに?」
「フフッ……そこがいいんだよ。可愛い。」
「バカ……大人をからかうんじゃないの!」
「僕も大人ですけど?硝子さんと同じ。」
また怒られると思ったけれど、硝子さんは驚いた様に俺を見つめるだけで、何も言わなかった。
「え?」
「ごめん。そう……だよね?」
もしかして、少しは伝わってる?
彼女が一瞬見せた顔に、心臓が痛いくらい反応している。
硝子さん……俺を見てくれてるの?
希望が見え隠れする現状に、俺の心は踊っていた。