A・O・I
逸る気持ちを抑えて、旅行先へと向かった。
予定より残業が長引いてしまって、来るのが遅くなった。
「夕飯にまだ間に合うかな?」
腕時計を何度も確認しながら、小走りに旅館の廊下を進んでいると、日本庭園がふと目に入った。
硝子さんとここ散歩したいな……そんな事を思っていた矢先、二人の姿が目に入った。
一人はスーツ姿の男、その胸に寄り掛かっているのは浴衣の女。
「あれは.....クソッ!!」
顔が見えた瞬間、俺は庭に飛び出していた。
「こんな人気の無い所に連れ出して、何してるんですかっ?!!」
「君は……」
「硝子さんから離れて下さい。俺が連れて行きます。」
他の男の胸の中にいる彼女を見て、全身が沸騰した様に怒りが込み上げて来た。
誰にも触れさせたくない。
誰もに渡したくない。
どす黒いエゴの塊の様な感情が溢れ出して、今にも吐き出しそうだ。
「いきなり現れて、あんまりな言い様だな?ただ介抱していただけだよ。接待で飲み過ぎちゃってね。」
「お見合いの件は、断った筈。」
「いや、悪いけどまだ保留だよ。俺が食い下がったんだ。君だってずっと一緒には居れないだろ?いずれは誰かと結婚するだろうし、彼女をもう独りにはしたくないからな。」
「独りになんかしないっ!!」
静かな日本庭園に響き渡った。
「それはどうゆう意味かな?」
「貴方に答える義務は無いです。」