A・O・I
子供だからと直ぐに切り替えて、キッチンの取っ手に手を掛けた時だった。
「ねぇ?あの子どうすんだが?なんの血の繋がりも無いんだべ?誰が引き取るのよ?私の所は無理よ?」
「私の所だって無理よ!家は年頃の女の子2人だし、そんな余裕も無いっちゃ。あ~父さんたら何であんな子養子にしたんだが?いい歳なんだから無責任だべ!!」
「本当にねぇ~……しかも普通の子じゃないっちゃ?どっかのハーフなんだべ?訳ありだって話だっちゃ。」
「父さんお人好しだから本当に困るわ~。お金だって人に貸してばかりで自分の家だって貯金だってこの通りだべ?私達にはお荷物しか残ってないっちゃ!」
中から聞こえてくる会話に私は固まった。
この子の事を言っているのは、容易に想像出来た。
チラリとその子を横目で見ると、俯いて不貞腐れていると思っていたその子は、ポトポトと涙を静かに零していた。
堪えるように拳を強く握り締め、震えている。
「あの子の名前なんだっけ?」
「え?確か……あおいじゃなかった?」
あおい……
ドクンッ
「あんな顔して名前は普通なのね?あはははっ!」
よく分からない衝撃が、自分の中に一瞬にして駆け抜けて、咄嗟にその名前を口走っていた。
その私の呼び掛けに当然の様に反応したのは、そこに居るあおいだった。
驚いた様に顔を上げ、涙で真っ赤になった瞳を私に向けている。
その目は何かを訴えている様で、か弱く今にでも壊れてしまいそうだ。
その瞬間、私はあおいの手を握って口走っていた。
「行く所無いなら、私の家に来るっ?!」
その子の瞳は、驚いて見開いた後、探る様に私の目を見つめる。
「大丈夫……絶対私が守るからっ!!」
溜まった涙を一気に床に落として、あおいは返事の代わりに私の手を握り返した。