A・O・I

睨む様に、目の前の男を見つめる。


「俺の事、彼女から何か聞いてるか?」


「ええ……お見合い相手だと聞いています。でも、受ける気は無いと。」


「それだけ?」


「それ以外、何かあるって言うんですか?」


「いや……。」


何か考えている様に眉を顰める男に隙を見て、腕の中から彼女を強引に取り戻した。


「硝子さんは、俺が部屋まで送ります。」


「分かったよ……分かったからそんな怖い顔するなよ。」


「してません。」


「でも、彼女の全てを君が受け入れられるかな?」


「それはどうゆうー……」


「じゃあな……今日は退散するよ。君が離した時、その時が俺の出番だ。」


俺の言葉を遮るように、目の前の男は背を向けて歩いて行った。


「誰が離すかっ………。」


腕の中で眠る硝子さんは、ピンク色に頬を染めて、俺の心を強く擽った。

目を開けた時も、こうしてみたい。

そうしたら、硝子さんはどんな顔するだろう?


「俺はいつになったら……あぁ~もう、止め!取り敢えず部屋行かないと。」


硝子さんを背におぶって、ポケットに入っていた鍵で部屋まで辿り着いた。

襖を開けると、既に座敷には布団が敷かれていた。

目を覚まさせない様に、ゆっくりと布団に降ろすと、暫く眠る硝子さんを眺めていた。

家ではいつも二人きりだけれど、寝る部屋が一緒になった事は確か初めてだ。

旅館の雰囲気が余計気持ちを昂らせた。


「取り敢えず水……持って来て置くか………。」


立ち上がろうと手を着いた時、不意に手首を掴まれた。


「あれぇ~?……あおいだぁ~!………何で居るの?おかしいなぁ~?内緒の筈なのに…フフッ…変なの~……。」




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