A・O・I
「すいませんでした。荒川さん、私はここで失礼します。」
ちっとも反省して無い含み笑いを残して、啓介は先にレストランに入って行った。
「蒼、ほら行くよ!」
「硝子さん……怒った?」
「怒った。」
「ごめん……。」
「周りに会社の人いっぱい居るんだから変な誤解されたら大変でしょ?」
「誤解……そうだね……。」
「そう言えば、女の子達もういいの?」
「ちょっと話し掛けられてただけだって。」
「ふぅ~ん。でも中には本気の子もいそうだけど?色々聞いてるんだから。」
敢えて疑いの眼差しを向けると、逸らすかと思った彼の瞳は意外にも真っ直ぐ私を見ていた。
「硝子さん……僕、好きな人ちゃんと居るから。」
「えっ?!!」
ドンっと胸を叩かれた様な衝撃が走った。
痛い、激しい動悸に心が着いていけない。
いつかはそうゆう日が来ると頭では分かっていた筈なのに、軽くパニックになってる自分がいる。
なんで私……こんなにも動揺してる?
「それって誰ー」
「お待たせしました~!!2名様ですか~?」
「はい。硝子さん行こうか。」
「あっ……うん!」
その後は殆ど覚えていない。
私は只々、平静を装う事に必死だった。
蒼の好きな人……。
タイムリミットのアラームが鳴った気がした。