A・O・I
“しまった”と思った時には、遅かった。
目の前の同僚は、目を見開いて固まっている。
「マジか……それで?ごっ後藤さんと結婚するのかっ?!」
両肩をガッチリ掴まれて、かなり近距離まで山口君の顔が近づいて来た。
「そっそんな訳ないじゃん!!取引先の部長から頼まれて、仕方無くってゆうか…とにかく形だけのお見合いだからっ!!」
「本当に??」
山口君の必死な形相に、思わず言い訳が口を衝いた。
「うっうん……本当だって、私は既に断ってるから。」
「そ、そうか。.....なんだ……そうか……そうか……びっくりした。」
「まぁ~確かに、この歳でお見合いなんて笑っちゃうよね?フフッ!」
「別にっ!!」
「え?」
「.....別にそんな事無いだろ。何歳だって結婚する権利は有るんだから。それにほら、俺だってタメなんだし.....。」
「あっ!そっか、そうだよね。ごめんっ!」
「そうだよ!!俺はまだ諦めないんだからな?」
「ごめんごめん!!山口君は私とは違うもんね。失礼しました。」
「違くなんかないっ!!荒川だって同じだよっ!!」
「えっ?!」
軽く交わした筈なのに、山口君は意外にも真剣な雰囲気で、私の視線はまた引き戻された。
「結婚する気無いって前から言ってたけど、諦めんなよ。勿体無いよ。お見合いとかが嫌なら.....それなら.....俺ー」
「荒川ー!!3番エアモールの佐藤さんから電話ー!!」
「はっはいっ!!」
山口君の言葉は、急な電話に遮られて、私はそのまま電話を取った。
初めて見る同僚の真剣な顔に、私の胸はざわついていた。