A・O・I
硝子さんの少し顔に掛かった髪の毛を、そっと整えながら、いつもの様に思いを込める。
少しでも俺の気持ちが伝わる様に。
「そっそう...そんなに好きなんだ。」
俺がこんな事をすると、最近の硝子さんは、直ぐに目を逸らして、離れようとする。
照れ臭いのだろうけど、少し寂しい。
昔の方が、もっと気さくに触れてくれたし、近くで笑いかけてくれたのに。
この気持ちを伝えたら、この距離はもっと離れてしまうのだろうか。
「そう言えば来週、実家に行くんだよね?」
「えっ?あぁ.....そう。一日泊まりになるから宜しくね。」
「.....うん。あのさ、前から思ってたんだけど、僕もちゃんと硝子さんのお母さんに挨拶ー」
「いいって!!遠くて何も無い田舎だし、行っても気疲れするだけだって。私がちゃんと話はしてあるから大丈夫。」
「でもっー」
「いいからっ!!」
「.....分かった。」
実家の事となると、いつもこの通りだ。
硝子さんに引き取られた時、一度だけ、彼女の母親に会った事がある。
会ったって言ったって、マンションに来た時に少しだけ話し掛けられただけ。
人を信じられなかった俺は、何も言葉を返さなかったけど、優しく接してくれた。
夜中に長々と二人で話している声も聞いた。
何について話しているか聞き取れなかったけれど、大体想像がつく。
きっと俺を引き取る事で反対されたか、心配されたかしたんだろう。