A・O・I

「ふぅ~……やっと終わった……。ここまでやっとけば後は楽だな。」


静まり返ったオフィスを見回して伸びをする。

壁に備え付けられた時計を見てハッとした。

既に10時を過ぎている。


「やだ!!すっかり夢中になってあの子の事忘れてた!!最低!!」


未だに一人暮らしの感覚の自分に腹が立った。

急いでPCをシャットダウンして、鞄を引っ掴んで駆け出した。

きっとお腹空かせて、私を待ってる!

こんなんじゃ保護者失格じゃない!!

最寄りの駅を降りて、ヒールで家まで走った。

久し振りのヒールは慣れなくて、爪先が痛い。


「もぅ!!」


こうなると何もかにも腹立たしい。

やっとの思いで家に着いて、そのままリビングに向かった。

真っ暗な部屋に明かりを点けて見回すけれど、誰も居ない。


「こんな時間だから、もう寝たかな?」


そっと静かに廊下を進んで、蒼の部屋を覗いてみる。

廊下の明かりで照らされた部屋はがらんどうで、蒼の姿は無かった。


「まさか…………出ていった?!」


私はパニックのまま、玄関を飛び出していた。

動きづらいスーツと咄嗟に履いたハイヒールで近くを探し回った。

警ら中の警察官にも頼んで一緒に捜して貰った。

捜して、捜して、一体どのくらい時間がたったのだろう。

足は靴擦れで皮が捲れ上がっている。

びっこを引く様に歩いて、漸く家に戻って来た。

後はもう一度、警察に届けるしか方法が無いと諦めて、リビングに置きっぱなしのバックに手を入れた時だった。

奥のソファーに、何かが動いた気配を感じた。


「え?」


陰になっていたソファーの正面にそっと回り込むと、そこには猫の様に丸くなって眠る蒼が居た。


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