sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜


指先からだんだんと血の気が引いて、震える手から書類がバサバサと床に落ちた。それと同時に、昼間円美さんと交わした会話を思い出す。


“恋愛なんか、まやかしに過ぎない――”


これは詠吾さんの友人、柚殿さんの口癖らしいけれど、まったくその言葉通りだった。

詠吾さんは祖父の指示で、私に近づいただけだったのだ。

祖父の目的はわからないけれど、彼の目的は明白。おそらく高額であろう、報酬のためだ。

……ハメられていたのは私の方だったんだ。

ふ、と力ない笑みが漏れる。ショックはショックだけれど、心のどこかで“やっぱりね”と納得する自分もいた。

詠吾さんが私のどこを気に入ってくれているのかずっとわからなかった。でも、そんなもの最初からなかったんだと思えば腑に落ちる。

彼のような素敵な人が、こんなめんどくさい女を無条件に愛してくれるなんてこと、あるわけないじゃない。

そこまで考えるとじわっと涙がにじんできたけれど、ぐっとこらえる。

泣いたら、まるで私のほうだけ本気であの人を好きだったみたいだもの。

手の中の書類をそうっとゴミ箱に戻し、掃除機だけ持って部屋を出ようとしたそのとき。


「……お嬢様」


いつの間にか開け放たれていた部屋の扉の前に、みーちゃんが立っていた。

彼女は私がこの部屋で何をしていたのか知っていたようで、同情の滲んだ声をかけられる。


「見てしまわれたのですね」


その、穏やかなかすれ声に誘われるようにして、こらえたはずの涙が私の視界をぼんやりと揺らした。


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