sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜


「藤咲さん!」


私を呼び止めたのは、数日前に詠吾さんのマンションで会った美人、凛さんだった。

あの夜は自己紹介もしなかったと記憶しているんだけれど、どうして私の名前を知っているんだろう。

呆気に取られている間に目の前まできた凛さんは、こちらの様子を窺うように聞いてくる。


「これからちょっと話できないかな? あなたにお願いしたいことがあるの。……詠吾には内緒で」


この間初めて会ったばかりの私に、何を頼むというの?

やっぱりこの人と詠吾さんとは男女の関係があって、彼には近づかないでとかそういう類の話をされるんだろうか。


「あ、そうか。私、ちゃんと名乗ってもいなかったんだっけ。ゴメン、かなり怪しい奴だよね」


明らかに怪訝な顔をする私に気付いた凛さんはそう言って苦笑し、バッグから名刺入れを取り出してそのなかの一枚を私に差し出した。


「普段はあんまり人に渡すことってないんだけど、いちおう身分証明」


私はそれを受け取って、書かれている文字を口に出して読み上げる。


「国税査察官……皆川(みなかわ)凛、さん」


国税査察官……? あまり聞いたことのない職業だけれど、税金関係の公務員ってところだろうか。


「簡単に言うと悪どい脱税者を見つけるのが主な仕事かな。で、この会社にその悪どい奴が巣くっているみたいだから、極秘調査中なのよ」


そう言って私の背後にそびえる才門ホテル本社ビルをにらむように見上げる凛さん。私は名刺から顔を上げ、思わず聞き返す。


「え……脱税って」

「詳しく話してあげたいけれど、こんな会社の真ん前じゃあれでしょ? どこかお店に入りましょう?」


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