sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
「好きだよ」
その夜、私は自室のベッドの上で膝を抱えながら、詠吾さんに電話を掛けた。
凛さんに“内緒で”と指示されたから、計画のことを話すつもりはない。だけど、これから自分のしようとしていることを考えたら心細くなり、声が聴きたくなってしまった。
彼の私に対する優しさや甘い台詞が全部お芝居であることは知っているけれど、今夜だけはそれに乗らせてほしい。
まやかしの愛で構わないから、私にください――。
縋るような思いで耳に当てたスマホから聞こえたコール音はたった一回。
すぐに出てくれたことが嬉しくて、こんな時でも胸が躍った。
『千那、どうした?』
「ごめんなさい、突然。……ただ、声が聴きたくて」
『珍しいな、千那がそんなこと言うの。……何かあったのか?』
いつも、私の感情の変化をすぐにキャッチしてくれる詠吾さんは、電話越しでもその能力が使えるらしい。
心配そうな声が演技だとしたら本当にこの人は役者だな、と切なくなるけれど、深く考えないようにつとめながら話す。
「何もないですよ。ただ、こないだ変な別れ方しちゃったから、気になってて」
『ああ、あの時はゴメン。今度、ちゃんと埋め合わせする。しばらくは忙しいけど……』
「いいんです。私が勝手に不機嫌になって、雰囲気壊しちゃっただけだから。それより、詠吾さん」
『ん?』と短く聞き返しただけの声すら、耳に優し気に響いて、胸が苦しくなる。
今から私が聞くことは、本当に無意味でばかばかしくて、その答えはただ自分を苦しめるだけだとわかっているけれど……どうしても、あなたの口から聴きたかったこと。