sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
「……私のこと、好きですか?」
声が震えないように注意しながら、平静を装って尋ねる。だけど、電話の向こうの彼はすぐには答えてくれない。
さすがに“好き”の二文字は、お芝居でも口にできないのかもしれない。そう思うと、残念なようなほっとしたような、複雑な思いが交錯する。
「ごめんなさい、困らせるような質問して。今のは忘れてくださ――」
私が諦めの言葉を口にした瞬間、その声にかぶさるようにして、詠吾さんがハッキリと告げた。
『好きだよ』
心臓がドキン、と大きく脈打って、急に上昇した体温が、スマホを握る手に汗をかかせる。
でも、これは詠吾さんが祖父から報酬を受け取るための、嘘の台詞。そう言い聞かせて、喜びそうになる自分を押さえつけるけれど――。
『俺は、千那が好きだ。初めて会った夜からずっと』
真剣で、重みのある声。まるで本当に愛しい相手に告白しているようだ。
騙されていると知らなければ、天にも昇りそうな気持ちで、浮かれていたことだろう。
でも、私は知ってる。彼の口から出る甘い言葉は、偽りのものだと。
知っている、はずなのに……。
「私、も……っ。詠吾さんのことが、好き……」
彼の告白に誘われるようにして、自分自身の本音が溢れ出してしまう。同時に、目頭が熱くなり鼻の奥がツンとした。
……泣いたら不審に思われる。だから泣くな。
そう自分を叱咤しても、ぎゅっと閉じたまぶたの隙間から、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれた。