sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
3.新月の逢瀬
バーラウンジ
心の準備ができたのかどうかもわからないまま、綾辻弁護士に罠を仕掛ける日が訪れた。
彼とコンタクトを取った副社長によって指示された待ち合わせ場所は、ホテルのバーラウンジ。
現在時刻はちょうど午後八時で、約束の八時半より三十分も早く着いてしまった。
店内のインテリアはあたたかみと高級感を兼ね備えた上品なブラウンで統一されている。その窓際のソファ席でこの店のオリジナルカクテルを一杯頼み、ぼんやりと窓の外に広がる夜景を眺める。
ここはもちろん才門グループとは関係のないホテルだけれど、会社との距離はそれほど遠くなく、幕張のベイエリアを一望できる窓からは自社ビルも視界に入るため、なんだか居心地が悪い。
かといって、早く綾辻弁護士本人に会いたいかというと、そうでもないんだけど……。
テーブルの上のカクテルグラスに手を伸ばして、緊張をごまかすようにお酒を口に含む。
だけど思いのほか度数が強くて、私はむせかえってしまう。
その拍子に、持っていたグラスが揺れて、中身が服の上にこぼれた。
「わ、ちょっと、最悪……!」
今日の私の服装は、夏らしいライトブルーのひざ丈ワンピース。透け感のあるシフォン素材で、少しは色気的なものも演出したつもりだけれど、汚れてしまったら台無しだ。
すぐに店員さんに何か拭くものを借りようと、立ち上がったそのとき。
「どうぞ」
まさに私の欲していた、濡れたおしぼりが手元に差し出された。