sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
交換条件
不気味なほどに明るい満月の夜。時刻は午後九時前。
私はつい数週間前まで通い慣れていた、とあるマンションを訪れていた。
「……いらっしゃい。この部屋に千那ちゃんが来てくれることなんて、二度とないと思ってたよ」
玄関先で私を迎え入れた祥平さんは、感慨深そうに目を細めていた。その表情は穏やかで、今のところ豹変の兆候は見られない。
「お邪魔します。……今日はどうしてもお聞きしたいことがあって」
私は緊張しながら、廊下を歩く彼の背中にそう投げかけた。
本当なら、こんなに早く本題に触れるべきではないというのはわかってる。
だって、これは罠なのだ。凛さんにも“彼に気のあるそぶりを見せて、油断したところであの話を――”と指示されている。
でも……好きでもない相手に“気のあるそぶり”だなんて、今の私にはできそうにない。
だから、そんな手を使わなくても真実を聞き出せれば一番いいと思っているのだけど……考えが甘いかな。
かすかに振り向いた祥平さんは、リビングに続くドアに手を掛けながら話す。
「……僕に聞きたいこと、ね。その中身は、きみから電話をもらった時点でなんとなく想像がついていたよ。だけど、その前に少し僕からも話がある」
「祥平さんからも? ……きゃ!」
聞き返した瞬間、強い力で手首をつかまれた。
そのまま引っ張られるようにしてリビングに連れてこられた私は、点けっぱなしのテレビの前に位置するソファに、乱暴に座らされた。