sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
「あ、あの……」
こみ上げる恐怖心の中、隣にドサッと腰掛けた祥平さんに話しかけながら、気づく。どこかで嗅いだことのある甘ったるい香りが、鼻腔をくすぐっていることに。
……なんだっけ、この香り。あまり好きじゃないのに、纏わりつくようにしつこくて、頭がくらくらしてくる。
不審そうにくんくん鼻を利かせる私に気付いたらしい祥平さんは、ふっと笑って部屋の隅にある小さな棚を指さす。
「……この部屋に漂っているのは、あれの香りだよ。副社長室でも嗅いだことあるでしょ?」
そこには、見覚えのある小さな香炉があって、そのなかから白い煙がゆらゆら立ち上っていた。
そっか……これって、あの時のお香とおなじ……!
にこりと微笑んだ祥平さんと裏腹に、私の背筋にはぞくっと寒気が走った。
そういえば、祥平さんと副社長は裏でつながっているんだっけ。
前はこの香りで、身体が思うように動かなくなったんだよね。あの時はすぐに逃げたからよかったけれど、今日は祥平さんの口から事実が語られるまで、逃げるわけにはいかないのに……。
とりあえずできるだけ鼻呼吸をしないよう注意しながら、私は祥平さんに尋ねる。
「いったい、なんなんですか、このお香……」
「あれ? 副社長に説明を受けたんじゃないの? まあいいや。彼はさ、もともとラブホテル業界出身で、“夜の帝王”だなんて呼ばれていたくらいだから、こういうグッズを開発するのが好きなんだ。恋人たちの夜を盛り上げる、いろんなアイテムをね」
そんな言葉と同時に祥平さんの手に耳の脇をそっと撫でられて、全身に鳥肌が立つ。
副社長がそんな業界から来た人だったなんて知らなかった。じゃあ、この香りはいわゆる“媚薬”的な効果のあるものなんだろうか。
……やだ。嗅いでたまるもんですか。