sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
ソファの足元にあるバッグを凝視して固まる私の隣で、祥平さんが低い声で笑った。
彼は迷わずバッグに手を伸ばしてそこから私のスマホを探し当てると、私に差し出す。
「……千那ちゃん、出て。今この場で、アイツからのプロポーズを断るんだ」
テレビの中には、相変わらずスマホを耳に当てて、相手が出るのを待ち続ける詠吾さんと、固唾をのんで彼を見守る、共演者たちの姿。
……そして現実に鳴っている、私の携帯。
じゃあ、緊急生放送で重大発表、というのは、彼が私にプロポーズをするために? でも、詠吾さんはわたしに本気じゃなかったはずじゃ……。
状況を呑み込み切れず、差し出されたスマホを受け取れずにいる私に、祥平さんが呆れた声を漏らす。
「早くしないと放送事故になっちゃうよ? 仕方ないな、僕が通話にするよ」
「えっ。祥平さん、ちょっと……!」
勝手に通話状態にされたスマホを強引に耳元に近づけられ、私は観念するしかなかった。
本当にこの電話とつながっているらしいテレビ画面の中では、同じタイミングで呼び出し音が途切れて、詠吾さんが真剣な表情で語り掛けてきた。
『もしもし、千那……?』
それと同じ声が、耳元の機械からも聞こえるのは、不思議な感覚だった。
私は祥平さんの手から受け取ったスマホを自分の手に持ち替えて、緊張しながら返事をする。