sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
凛とした声が響くのと同時に、詠吾さんのいるスタジオはしんと静まり返った。
彼女の返事はイエスかノーか……共演者たちも祈るように両手を合わせたり、ぎゅっと目を閉じたりして、私の返事を待っている。
そのとき、私のお腹に回された腕が、ぎゅ、と力強さを増した。そして背後にいる祥平さんは私の首筋にキスを落とし、生暖かい息と一緒に、こんな言葉をささやいた。
「なんて言えばいいか、わかるよね?」
……はい。ちゃんと、わかっています。あなたの望み通りに、返事をすればいいんでしょう?
私は静かに目を閉じて、コクンと頷く。汗の滲んだ手でスマホを握り直して、電話の向こうの詠吾さんに、震える声で短く答えた。
「……ごめんなさい。あなたと、結婚は、できない」
詠吾さんは本気でないのだから、断りの返事をしたところで痛くも痒くもないだろう。
何度自分にそう言い聞かせても、どうしてかこの胸は罪悪感を覚えてしまう。
それはきっと、いつもいつも、詠吾さんの演技がうますぎるからだ。
私のことを本気で好きなんじゃないかって期待させるようなしぐさや表情、そこに嘘や偽りがあるだなんて微塵も感じさせないから、私もすっかり騙されてしまって、事実を未だに受け止め切れていないんだ。
画面の向こうの詠吾さんがどんな反応を示したのかを見る勇気がなく、私はうつむく。
祥平さんはそんな私の頭を“よくできました”とでも言いたげによしよしと撫で、再び手にしたリモコンでテレビの電源を落とした。