sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
8.想いは同じ 

王子様の欲しいもの



夢の中で、“これは夢だ”と気が付きながらも、目が覚めないときがある。

どうやら今もその状態のようだ。……だって、どう考えても都合のいい展開だもの。


「千那……」


私が自分の部屋でベッドに横たわっているのは、現実と同じ。

だけど、ここにいるはずのない詠吾さんの声がして、甘い声で名前を呼ばれる。


「起きないなら、無理やり起こすまでだけど……」


夢の中の私は目を閉じているから、彼の顔は見えない。でも、ゆっくり近づいてくる気配と、詠吾さんのバニラの香りを感じる。

まぶたの向こうが暗くなったような気がした次の瞬間、羽根のような軽いキスが落ちてきた。


「……ン」


夢の中の私はうっとりとした気持ちになって、甘い声をこぼす。

今の私は、眠り姫のよう。王子様のキスで目が覚めて、ふたりは幸せになるんだ。

……でも。もしも目を覚ましてしまったら、現実にそんなハッピーエンドは待っていない。

だったら、もう少しだけ、夢を楽しませて。ねえ王子様。もっともっと、甘いキスを……。

手を伸ばして、まだ近くにあった彼の顔をそっと両手で包み込む。

クスッと笑った彼の鼻息が頬に触れ、彼が王子様にはそぐわない意地悪な声で囁く。


「なに? お姫様。キスが足りない? ……いいよ。いくらでもしてあげる」


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