sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
自分では主演女優賞ものの演技だと思ってそうしていたのに、綾辻さんはドキッとした素振りもなく鼻から息を漏らして笑うとひとこと。
「酔った?」
そ、それだけ……? 私の迫真の演技が伝わってないじゃない!
なんだか意地になってきて、普段は使わない濃い色のルージュを引いた唇を尖らせ拗ねた顔をしてみる。
「……わざとだって、気づいてよ」
「そうか。ゴメン……それにしてもあまりに教科書通りだから」
後半のぼそっと呟いた声が聞き取りづらくて、私は彼を見上げて尋ねる。
「今なんて言いました?」
「なんでもない。……行こうか、部屋」
綾辻さんは大人びた微笑でそう言うと、大きな手で私の腰を引き寄せて抱いた。
小さく胸が跳ね、彼と密着した体が緊張でかたくなる。
ああ……もう逃げられない。
ゴメンねおじいちゃん、私はこれからこの弁護士さんを罠に掛けます……。
高層階を目指すエレベーターの中でも、部屋に向かうまでの廊下でも。私は胸の内で何度も祖父に謝りながら、自分の覚悟が決まるのをひたすら待った。