sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
スイート
「わ……素敵な部屋」
一歩部屋に足を踏み入れるなり、自然とそんな言葉がこぼれる。
それもそのはず。ここはこのホテルで二番目にいいスイートルームで、さっきバーからも見えた新都心の夜景を、もっと高い場所から眺めることができるのだ。
まさかとは思うけど、この部屋にかかる費用とかって、会社の経費だったりしないよね……? なんて、こんな時に経理部としての自分が顔を出し、疑問に思ってしまう。
でもまさか、祥平さんがそんなことを許すはずないよね。
そう思い直して、壁一面を占める大きな窓のそばへ歩み寄ると、夜景もさることながら夜空にたくさんの星が瞬いていて、とても綺麗だった。
「月は見えないんですね……」
方角の問題かもしれないけれど、月も見えたらなおよかったのに。
残念そうにつぶやいた私の隣に綾辻さんが並んで、同じように空を眺める。
「確か今夜は新月だよ。見えないんだ、もともと」
ふうん、と小さく相槌を打ったけれど、窓ガラスに映る彼が私の背後に移動したことに気付き、全身に緊張が走った。
動揺したらダメだと思うのに、心臓が飛び出てきそうなくらい大きく脈打って、手のひらには汗がにじむ。
綾辻さんはそんな私を後ろから包み込むように抱きしめた。
途端に香ったのは、彼が纏っているらしいバニラ系の甘い香り。
触れている体温と鼻腔をくすぐるその香りに、いやでもこの先自分の身に起きることを予想させられる。