sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
あと数センチで鼻先がくっつきそうなほどの至近距離に驚いていると、彼が片手でネクタイを緩めながら言う。
「……アンタ、人を愛したことないんだろう」
この人、どうしてそれを……。さっきの話ではそこまで言わなかったはずなのに。
目を瞬かせながらじりじり後ずさりするけど、彼もいっしょについてきてその距離はちっとも離れない。
「それなのによくこんな仕事引き受けたもんだ。……男を誘う演技は下手だし、俺の言葉にいちいち動揺するのも隠せてないし、笑いをこらえるの大変だったよ」
ば、馬鹿にされてるー! そりゃ私だってこういうことに向いてないと薄々わかってはいたけど、必死だったのに!
私はムッとして綾辻さんを睨む。でも彼の方はまるで子供をなだめるような穏やかな笑みで私を見つめてきたかと思うと、私の顎をくい、と持ち上げた。
「だけど、その度胸に免じて今夜は罠にかかってやるよ」
「え……?」
「アンタの任務遂行を手伝うと言ってるんだ。ほら、ぼうっとするな」
「あ、あの、意味がよく――――ンッ!」
唇に、やわらかい熱が触れる。その事実を脳内でちゃんと認識できぬまま、二度、三度と角度を変えてキスが繰り返された。
私は軽いパニック状態に陥って「あの」とか「ちょっと」とか言おうとしてみるけれど、言葉を発する隙なんか与えられず、次第に深くなっていくキスによって、さらに思考能力が奪われていく。
決して彼にときめいたとかそういうのじゃないのに、自然に熱い吐息がこぼれて、すがるように彼のシャツをぎゅっとつかんでしまう。