sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
モヤモヤしたものを抱えたままシャワーを浴び終え、いつもなら手入れを怠らないロングヘアのブローもそこそこにバスルームを出ると、ベッドのある部屋を通過して隣の部屋へ。
すぐに目に入ったのは、椅子に腰かける綾辻さんの背中。
ベッドルームと同じように広い窓からは、朝陽に照らされて光るビル群と、幕張の海が見える。
広いスイートルームの中でダイニングスペースになっているそこには、彼の言った通りおいしそうな朝食がセッティングされていた。
テーブルに並んだ、クロワッサンに、サラダに、オムレツ……そして紅茶のいい香りが、食欲をそそる。
……綾辻さんと一緒に食べるのは気が進まないけど。
「あ、千那上がった? じゃあここ座って」
私の姿に気付いてスッと立ち上がった彼が、紳士的な動作で椅子を引いてくれる。
そこまでされたら座らないわけにいかないじゃない……。
居心地の悪さを感じつつも、「ありがとうございます」と口にして席に着いた。
「じゃあ食べようか。あんまりゆっくりはできないけど、腹が減っては戦はできぬだ」
いただききます、と小さくお料理に頭を下げた彼は、ナイフとフォークを手にさっそくオムレツを食べ始めた。
私はクロワッサンに手を伸ばし、それをちぎりながら彼に話しかける。
「お仕事、今日も忙しいんですか?」
「まあ、忙しいといえば忙しいかな。あ、ちなみに朝イチで才門社長に会いに行くから、千那のことも会社まで送るよ」
「へえ、祖父に……って、ええっ!?」
目を見開いて驚愕する私に、綾辻さんは事もなげに言う。
「正式に顧問になるのは来月からだけど、すぐに相談したいことがあるとかで」
「でもそれって。私が昨夜のことを暴露したら、なくなる話なんじゃ」
綾辻さんと、私が寝る。そのことで祖父が怒る。よって綾辻さんは顧問にならない。
そういうシナリオだって、綾辻さんも理解しているはずなのに。