sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜


「俺は、千那が“言わない”と思ってるから」


綾辻さんは自信ありげに断言し、椅子の背もたれに身を預けながら紅茶を口に運ぶ。


「……なんでですか。普通に報告する気満々ですけど」

「あれ、おかしいな。俺の愛ってもしや全く伝わってない?」


苦笑しながらカップをソーサーに戻す彼に、思い切りしかめっ面をしてしまう。

あ、愛? 昨日の私たちの行為のどこにそんなもの……あ。そういえばいくつかそれらしいセリフがあったような。


「あの、私の心に入り込んでどうこうってやつ……まさか本気なんですか?」

「まさかとは心外だな。当然本気だよ、だからこうして千那と向き合ってるんだ。どうしたら千那の中で俺の株が上がるだろう、とか考えながらね」


にこりと親し気な笑みを向けられるけれど、至極嘘っぽくて逆に警戒してしまう。

いったい何がしたいんだろうこの人……。


「綾辻さんはスーツの似合う男グランプリに選ばれてテレビで報道されるほどの人なんですから、こんなひとりの女の評価なんかどうでもいいじゃないですか。日本中があなたをカッコいいと思ってるんですよ?」

「もちろんそのことは光栄だと思ってる。でも、日本中にダサいと思われてもいいから、俺は千那に愛を教えたいんだ」


また出たよ、“愛”。愛の本質なんか知らない私でもぽんぽん使う言葉でないことくらいはわかるのに、彼ときたら数分の間に二回も使うという安売りっぷり。

……その信ぴょう性は下がる一方だ。


私は彼の話を真に受けることをやめにして、ぶすっとしながら残った料理を口に詰め込んで紅茶で流し込み、ごくんと飲み込むと席を立つ。


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