sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜


「ち……藤咲さん、念のために聞くけどさ」


またしても名前を呼び直す祥平さんに、ちくりと胸が痛む。私を苗字で呼ぶことにまだ慣れないのかな。

そういえば、私もいつまでも“祥平さん”じゃまずいよね。


「はい。なんでしょう部長」


仕事モードっぽくはきはきした口調で聞いてみたけど、飛んできた質問は限りなくプライベートな内容。


「綾辻弁護士のこと、本気で好きになったりとかしてないよね?」


私は一瞬何を言われたのかわからず、ぽかんと間抜けな顔をしてしまう。

綾辻弁護士を、本気で好きに……? いやいや、そうなってたらぬけぬけと昨夜のことをあなたに報告したりしないでしょう。

そもそも私が誰かに対して“本気”にならないことは、祥平さんが一番わかっているはずなのに。


「あり得ません。私は今まで本気で人を好きになったことなんて一度もないですし、あの人はむしろ嫌いの部類に属します」


きっぱり断言すると、祥平さんはなぜか安堵したように息をつく。


「そう、か。僕と比べたらどっちのほうが……って、ゴメン。もう関係ないよな。とにかくご苦労様。通常の仕事に戻っていいよ」

「……はい。失礼します」


祥平さん、何を言いかけたのかな……。まあいいや、それよりちょっと時間をロスしちゃったし、早く仕事に入ろう。

私は頭のなかの小さな疑問にふたをして、自分のデスクに戻った。


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