sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
祥平さんの嘘
この間のように綾辻さんがうちの会社をウロウロしていたら、面と向かってデートの件は断ろう。
ひと晩経ってそう固く決意したものの、あれから彼を会社で見かけることはなくなってしまった。
だからと言ってこちらから電話するのも癪だし、電話だとどうも向こうのペースに乗せられてしまう気がする。
だから、偶然ばったり顔を合わせる、というパターンを期待していたのだけれど、あっという間に金曜日の終業時刻を迎えてしまった。
その日は時間内に片付かない仕事が少しあって、私は経理部のあるフロアの給湯室でコーヒーを入れていた。
小さなキッチンやエスプレッソマシンのある部屋の反対側は簡素な休憩スペースになっていて、シンプルなソファとテーブルが置かれている。お昼休みにはときどきそこでうたた寝をする社員を見かけるけれど、今はこの部屋に私ひとり。
入れ終わったコーヒーにミルクと角砂糖をひとつずつ入れて、その静かな空間から出ようとした時だった。
給湯室の扉が外側からガチャリと開いて、驚いた私の手のなかでコーヒーが揺れる。
「わ、やば」
「千那ちゃ、あぶな――」
――びしゃ。と悲しい音を立てて、私の着ていたオフホワイトのとろみシャツがコーヒー色に染まった。
うわぁ……やっちゃった。とりあえずあと少し仕事して帰るだけだからよかったけど、落ちるかなこれ。
「ゴメン、僕のせいだ。火傷はしてない?」
目の前ですまなそうに頭を下げるのは、どこか疲れた様子の祥平さんだ。