sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
「いえ、完全に私の不注意です。火傷とかも全然平気だし、今ちょっと水で濡らしてみてあとは家で洗濯すればなんとかなる……と思いますから気にしないでください」
私は笑顔でそう言って、キッチンの方へと移動する。
棚の中からキレイ目のふきんを探し出し、それを濡らすために水道のレバーに手を掛けたとき――。
「……それ。濡らしたら、透けちゃうんじゃない?」
耳元に祥平さんの上擦った声を感じたと同時に、後ろから彼に抱きしめられてしまった。
な、なんでこんな状況に……? しかも“透けちゃう”とか、変な意味を含んでいるように聞こえたんですけど。
祥平さんの異様な雰囲気に体が硬直する。水道から出しっぱなしになっている水は後ろから伸びてきた祥平さんの手がきゅ、とレバーを操作して止めた。
「ぶ、部長……?」
「千那ちゃんにそうやって役職名で呼ばれることがこんなに辛いとは思わなかった。僕は自分が思っていた以上に、きみにのめり込んでいたみたいだ」
熱っぽくささやかれて、全身に鳥肌が立つのを感じた。でも、そんな自分が不思議でもある。だって、祥平さんとはいちおうお付き合いしていて、つい一週間前まで身体を合わせていた仲でもあるのだ。
これくらいのハグなんてどうってことないはずなのに……今は彼に触れられることに嫌悪すら感じるのはどうして。
「あの、とりあえず、離れましょう?」
「ゴメン……できない。だって、僕は副社長に嘘の報告をするくらいに耐えられなかったんだ。……きみがあの弁護士に抱かれたという事実が」
嘘の報告……? ちょっと、それどういうこと。
思わず祥平さんの方を振り向こうとするけど、より強く抱きしめられて苦しいくらいに身動きが取れない。