sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
「それにしても」
数秒間重なったのち、離れていった綾辻さんの唇が熱い吐息を混じらせながら囁く。
「な、なんですか?」
今は初めての感情を処理するのに精いっぱいだから、これ以上甘い言葉を掛けられて心を乱されるのは、正直困る。
そんな心配をしながら彼を見つめると、なぜか視線が合わない。彼がじっと見ているのは私の胸元……。さっき作ったコーヒーの染みだ。
「千那って結構おっちょこちょい? 初めて会った日もなんかこぼしてたし」
「え……あ。いや、それは、偶然です! そんなに落ち着きのない性格ではない、はず……」
自信なさげに言葉尻を濁す私に、綾辻さんは目元を緩める。
「怪しいな。……まあ、これからじっくりと千那のいろいろな部分を教えてもらおうと思ってるから、俺自身が判断してやるよ」
ぽん、と頭に手を置かれて優しく撫でられた私は、子ども扱いされているようでなんだか不満。
まあ実際綾辻さんに比べたら子どもだろうけど……年齢以上に幼いと思われているんだったら、なんかやだな。
「……っと。もうこんな時間か。俺は帰るけど、千那は?」
腕時計を確認した彼にさりげなく聞かれる。
もし予定が合えば一緒に帰ろうとでも言うつもりだったのかな。仕事を残してきたことが、ちょっとだけ悔やまれる。