sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
「まだ、仕事が残ってるので」
「ああ、だからコーヒー入れたのか。……あ、岡田祥平にはくれぐれも気をつけろよ。上司とはいえ適度な距離を置くように」
綾辻さんに厳しく釘を刺されて、私は従順に頷いた。
「は、はい。わかりました」
「よし、いい返事。じゃあな、次は日曜日に」
爽やかな笑顔とそんな約束を残して、綾辻さんは給湯室を出ていく。扉がパタンと閉まると急に全身の力が抜けて、綾辻さんと二人きりの空間にかなり緊張していたんだと気がついた。
「日曜日は、デート……か」
思えば男の人と本格的に外出するのって、初めてかもしれない。
祥平さんも含め今までお付き合いしてきた人とはやっぱり肉体的なコトが中心だったから、家とかホテルとかでぐだぐだしているばっかりだったし……なんか新鮮だな。
行き先は東京タワーとか言ってたっけ。
どうせなら綺麗な景色が見たいから、晴れるといいな――って、なにをそんな楽しみにしてるんだろう、私。
いままであんなに冷めてた心が嘘みたいにホクホクしていて、ドキドキの音もまだ止まない。
これって、やっぱり綾辻さんに背中を押されて、例の入口に入っちゃったせいなのかな。
「……でも、今日のところはとにかく仕事片付けなきゃ」
本当は頭の中も胸の中も春が来たみたいにピンクに染まり始めていたけど、私は気持ちを切り替えるようにふう、と息をつくと、ようやくソファから立ち上がった。