sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
「……いいよ。だから、今回の件は千那ちゃんへの仕返しなんだ」
仕返しだなんて物騒な言葉とは裏腹に、祥平さんが優しい手つきでぽんぽん私の頭を撫でる。
「綾辻弁護士に近づくことが……?」
「そう。僕みたいな平凡な男落とすより、ずっと面白そうじゃない」
ね?と悪意のない瞳で言い聞かせてくる祥平さんを、やっぱりいい人だと思った。
恋愛感情を持てない自分が恨めしいくらいだ。
でも、その代わりにできることがあるなら……。
「……わかった。やってみる。失敗しても知らないけど」
祥平さんの最後の願いだけは、かなえてあげたい。
それによって副社長が彼を出世させてくれるのかどうかとか、詳しくはわからないけど……少しでも、彼の役に立てるのなら。
「よかった。ありがとう。とりあえず副社長に伝えて、詳しいことはまた連絡するよ」
「うん、わかった。……今まで、お世話になりました」
祥平さんは最後まで笑顔で、私を玄関まで見送ってくれた。
あんないい人が、薄情な私のために今までたくさんの時間を割いてくれてたんだよね……本当に申し訳なかったな。
外に出て、私はもう一度祥平さんのマンションを振り返る。そして彼の部屋のある五階に向かってぺこりと頭を下げた。
「恋愛ってなんだろ……」
顔を上げ駅に向かって歩き出しながら、私は心底わからないその難題を、夏の夜空に向かって吐き出した。