sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜
祖父は無言で数回頷き、寂しそうに微笑んだ。
そんな顔をされるとこっちまでつらいけど、行きたくないものは行きたくない。いつも思い出さないようにしている悲しい過去が、蘇るような気がするから――。
「そうか、わかった。……じゃあ、気をつけてな」
「ん。……行ってきます」
くるりと踵を返して、扉を閉める。そのとき無意識に強めの音を立ててしまったことを後ろめたく思いながら、私は玄関を出た。
家の前に停まっていたのは、上品なディープブルーのセダン。窓越しに私の姿に気付いた綾辻さんが運転席を降り、傘をさしてこちらに向かってくる。
ベージュのパンツに爽やかな白のカットソー、その上に黒のジャケットを羽織っていて、ラフ過ぎず清潔感のある服装はなかなか悪くない。悪くない、というかむしろ……。
「今日の千那可愛い。俺のために気合入れてきてくれた?」
聞きながら綾辻さんは私の手を取り、差している傘の中に導いてくれる。
……先に言われてしまった。綾辻さんだってそうとうカッコいいです、というのは言ってあげないことにしよう。
相合傘の下ふたりで車に近づきながら、私はわざと無愛想に彼から目線を逸らして話す。
「気のせいです。これは普段着です」
なんていうのは大嘘で、清楚な小花柄のワンピースも羽織っている淡いピンクのカーデも、今日のためにわざわざ新調したものだけど。