sugar days〜弁護士のカレは愛情過多〜


「うん。それは千那のいう通りだ。……でも、来年も千那と一緒にいたいと思っている俺の気持ちだけは、疑わないで欲しい」

「綾辻さん……」


どうして、出会ったばかりの私にそこまで言ってくれるんだろう。

彼の本心はわからないけれど、重ねられた手のぬくもりが、私の黒い気持ちを小さくしていく。

そんなささいな気持ちの変化を感じ取ったように、綾辻さんは明るく質問を続けた。


「じゃあ次。好きな食べ物は?」

「……みーちゃんのぬか漬け」

「みーちゃん?」

「うちのお手伝いの三田さん、すごく料理が上手くて」


大好きなみーちゃんの話となれば、私は余計に気分が軽くなり、饒舌になった。

彼女の料理の話、ひと昔前の信じられない流行、そしてこの間聞いたばかりの、みーちゃんの純愛も。

私ばかりが話しているうちに渋滞も抜け、あんなに振っていた雨も小降りになってきた。


「このままなんだか晴れそうですね」

「ああ。俺の日ごろの行いがいいんだな」


……私と逆のこと言ってるし。

得意げな綾辻さんがおかしくてクスクス笑うと、一瞬こちらを見た彼も口元を緩める。


「千那が元気になってよかった」

「え?」

「いや、家出てきたときからずっと浮かない顔してたから」


気づいてたんだ……しかも、デートの最初から。いつも人の表情の変化に敏感なのは、弁護士という職業のせいなのかな。それとも、彼の性格?

どちらにしろ、綾辻さんのそういう部分に触れるといつも、胸がきゅう、と鳴く。

少し前までは、それが不快だったけど……今はなんだか、甘くて心地いい。

言葉や態度で素直にそう表現できるまでにはなれないけれど、まずはどうしても彼に対してそっけなくツンとした態度になってしまう自分を、変えていけたらいいな……。


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